投資家が期待するESG情報開示
日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)
会長 荒井 勝
ESG投資は現在、第3ステージに入っていると考えています。第1ステージは、2006年に国連がサポートする責任投資原則(PRI)ができて、年金基金などの長期投資家が調査分析や投資決定を行うプロセスで、企業の環境、社会、ガバナンスへの取り組みを評価することがスタートした時期です。この時期は、ESG投資に取り組む方向性は示されたものの、利用できるESG情報がまだ限られていました。2000年前後に、ダウジョーンズ・サステナブル・インデックスとFTSE4Good(フツッイーフォーグッドと発音)のESG投資指数が出来て、先進国企業のESG調査が進みましたが、情報量がまだ十分ではありませんでした。
その後、他の指数会社やESG評価会社も参入してESG情報もかなり揃い、課題は情報の質となりました。この時期を第2ステージと考えています。この頃から現在にかけてESG投資家もかなり増えて、PRI署名機関数は2021年7月12日時点で4,166機関、その総運用資産額は103兆ドルを越えています。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)では2005年以来、日本のサステナビリティ投資を毎年集計していますが、2020年には310兆円となり、欧州、米国に続く規模となり、先行していたカナダとオーストラリア・ニュージーランドを抜いています。
現在は第3ステージと考えています。各国政府、中央銀行、監督官庁、NGOなどによるESG情報に関する取り組みが進み、一方ではさまざまな基準や定義を整理・統一する動きが出ているからです。2021年6月には国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が一つの組織(Value Reporting Foundation)となりました。欧州ではタクソノミー(分類・定義)を定める動きや開示の法制化も進み、さらにIFRSが非財務情報の開示について検討をはじめました。
こうした状況については、サステナビリティ情報審査協会(J-SUS)のコラムに詳しい解説があります。投資家視点では、投資判断にESG情報が不可欠となり、その情報を企業間で比較可能とするために、財務情報で求められている重要性、簡潔性、信頼性、一貫性などが、同様に求められるようになったと考えています。
また、ESG投資やグリーン・ファイナンスが本格化したことで、そのような金融が本当に基準を満たしているか見極める必要が投資家サイドにも生じています。金融商品の運用、設定、引受、販売を行う際にグリーンと認識していた商品が、そうではなかったと判明した場合には、金融機関にもさまざまな責任が生じます。金融市場安定化のためにも明確な判断基準が必要だと各国の中央銀行も認識しています。
日本でも、株式のみならず債券や不動産、オルタナティブ投資、また銀行の融資にもサステナブルという考えが広がっています。各官庁主導でさまざまな取り組みが進んでおり、今後は日本でも、基準作りや開示内容の審査・保証が必要になってくると考えられます。現在、注目しているのが「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正です。2020年3月31日以降に終了する事業年度の有価証券報告書に適用されていますが、記述情報の充実、建設的な対話(投資家とのエンゲージメントを意味する)促進に向けた情報の提供、情報の信頼性・適時性の確保に向けた改正です。
今後、企業に望まれるのは、各企業が自社にとって重要なESG情報のKPIを特定し、取り組みを進め、その進捗状況を有価証券報告書などで積極的に開示することと考えています。 また、ESG情報開示の正確性を期すために、審査されていることが投資家から求められる時代になると考えます。